『ブラック・パンサー』
第91回アカデミー賞(2019)
★【美術賞】
★【衣装デザイン賞】
★【作曲賞】
(C)Marvel Studios 2018
原題:「Black Panther」
製作年:2018年
製作国:アメリカ
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケビン・ファイギ
製作総指揮:ルイス・デスポジート、ビクトリア・アロンソ、ネイト・ムーア、ジェフリー・チャーノフ、スタン・リー
共同製作:デビッド・J・グラント
原作:スタン・リー、ジャック・カービー
脚本:ライアン・クーグラー、ジョー・ロバート・コール
撮影:レイチェル・モリソン
美術:ハンナ・ビークラー
衣装:ルース・カーター
編集:マイケル・P・ショーバー、クローディア・カステロ
音楽:ルドウィク・ゴランソン
音楽監修:デイブ・ジョーダン
視覚効果監修:ジェフリー・バウマン
ビジュアル開発主任:ライアン・メイナーディング
キャスト:チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ、レティーシャ・ライト、ウィンストン・デューク、アンジェラ・バセット、フォレスト・ウィテカー、アンディ・サーキス、フローレンス・カスンバ、ジョン・カニ、デンゼル・ウィテカー、セバスチャン・スタン
ワカンダ・フォーエバー!!!
え、いきなりどうしたって ?
一緒にどうですか?まずは「ワカンダ」で腕を胸の前で交差させてXの形を作っておいて「フォーエバー」で一気に下へ振り下ろす!
簡単ですよね、では、いいですか?一緒にいきますよ。
ワカンダ・フォーエバー!!!
…なんでやらないんですか?
気分じゃないと?
もういいでしょう見ていて下さい、
悲しみの、ワカンダ・フォーエバー!!!
…エバー!!
…エバー!
…エバー
ということで、はい終わりました。
俗に言う、気が済んだというやつです。笑
この「ワカンダ・フォーエバー」ってこの映画の中で度々登場する掛け声なんですよ。
だから、もうそれだけ叫んでればとりあえず良さが伝わるかなと思ったんですが、今はもう公開当時では無いということで地道にこの映画の良さを紹介しますかね。
さあ、とうとうMCU作品です!
「アベンジャーズ」のあのシリーズですよ。
いやあしかしMCU作品がとうとうアカデミー賞に絡んでくる時代になったんですねえ〜。
MCUといえば色々なヒーローがいるんですけどその中ではこの『ブラック・パンサー』は比較的に地味な感じに捉える人も少なくないと思います。
ただしそれはあくまでアメコミに馴染みのない日本ではということで、いざ映画が公開されてみれば世界中でびっくりするほど特大のヒットをかましたわけなんですよね。
なんだかんだで日本でもヒットした印象はあるんですけど、アメコミの本場であるアメリカでは全米歴代興行収入3位にまでなってしまうほどメガヒット!これって凄いことなんですよ、『タイタニック』や『アベンジャーズ』を一気に抜いたんですからね。
ちなみに2019年8月現在は『アベンジャーズ/エンドゲーム』に抜かれて全米歴代興行収入は4位になってますがこれはさすがにしょうがないですよね、ヒーロー単体の映画に比べて相手はあのMCUヒーロー全員集合の近年最大のお祭り映画ですから。
しかし、それで言えばMCU作品の歴代興行収入の中では全員集合の『アベンジャーズシリーズ』を抜きにしたら『ブラック・パンサー』は単体のヒーロー作品としてはトップです。
最終的には全世界を合わせての歴代興行収入で10位にまでなりましたね。
これは世界で『ハリー・ポッター』のシリーズや『アナ雪』よりもヒットしたって事なんですよ!
それぐらいすごいヒットしたというのは伝わったと思うんですけど、日本だともしかしたらピンとこないところもあるかもしれないのでその辺も含めて面白さを紹介できたらなと思います!
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あらすじ
遥か太古の昔、ヴィブラニウムという鉱石で出来た隕石が地球に堕ちてきます。
そこはその後アフリカと呼ばれる地になり、その中でもヴィブラニウムの産地となったワカンダ王国は絶大なパワーを持つヴィブラニウム鉱石のおかげで小国ながらも大いに国が発展して超文明国家になっていくのです。
とにかくこのヴィブラニウムというのは万能な鉱石なので色々な所へ使う事が出来て科学技術が次々と開発されていきます。
しかしヴィブラニウムの事を白人国家などの他国に知られ、奪い取る為に侵略や悪用されることを恐れて世界へ向けては超文明国家であることを科学技術を駆使して隠したり世界中にスパイを放ってずっと秘密を守り通してきたんですよ。
だから国際的には、表向きはある種世界から隔離された発展途上国としてきたんですよ。
まあつまり、ヴィブラニウムの恩恵を受けて国として大きなパワーを持ちながらも、世界中で起きる惨劇からは「うちは関係ありません」という無介入というスタイルでやってきたってことですね。
いたって利口じゃないかって?
まあ、もちろんそうとも言えるんですけどね。
そうやってかたやワカンダ王国の繁栄と、かたや世界の時代の移り変わりのさなかの1992年、当時の国王であるティ・チャカ(ジョン・カニ)がアメリカ・カリフォルニア州オークランドでスパイとして潜入していた弟のウンジョブの元を訪れます。
実はこのウンジョブがワカンダで入手した武器を武器商人のユリシーズ・クロウに横流ししていて、ティ・チャカをそれを問い詰めに来たんですね。
そこでウンジョブは「放っておけない」と言うわけですよ。
アメリカに来てワカンダ王国の外では未だに黒人が虐げられている現実を目の当たりにして、武力でなんとかしようと思ったんですね。
しかし、ティ・チャカ国王は「それはならん」ということで、実の弟のウンジョブの胸にその場でヴィブラニウムの爪を突き刺し、国王自ら手を下してしまうんです。
そしてその事実を封印します。
時は流れ、24年後の2016年。
ウィーンで行われたソコヴィア協定の署名式で起こった爆破テロによって国王のティ・チャカが死亡してしまうのです。
そして息子であるティ・チャラが新しい国王として即位することになり、新たなブラック・パンサーの物語が始まるわけです。
ワカンダ王国の新たな国王ティ・チャラの成長をどう描くのか?
ヴィブラニウムを狙う武器商人ユリシーズ・クロウ、そしてティ・チャラが越えなければならない謎の敵キルモンガーとの闘いはどうなるのか?
先代国王死去にのるワカンダ王国の御家騒動、その先にワカンダ王国が示す道とは?
物語は、その辺を注目して楽しんでもらえたら良いかと思います。
主要登場人物キャスト
● ティ・チャラ/ブラック・パンサー
演:チャドウィック・ボーズマン
(C)Marvel Studios 2018
(C)Marvel Studios 2018
劇中ではワカンダの若き国王とブラック・パンサーという2つの顔を持つ主人公のティ・チャラを演じています。
サウスカロライナ州で生まれたアメリカの俳優さんです。
学生時代はスピーチとバスケが得意で、文武両道だったとのことです。
俳優としては2003年からテレビドラマなどでキャリアを積んでいきます。
映画の出演としては2014年の『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』での主人公であるジェームス・ブラウンの完コピ演技が話題を呼びました。
個人的には2013年の『42 〜世界を変えた男〜』での戦後のアメリカで差別に耐え忍び戦った黒人メジャーリーガーのジャッキー・ロビンソンを見事に演じていたのが印象に残ってます。
● エリック・“キルモンガー”・スティーヴンス/ウンジャダカ
演:マイケル・B・ジョーダン
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、MCUでも指折りのヴィラン、キルモンガーを演じています。
カリフォルニア州生まれのアメリカの俳優さんです。
俳優の前はトイザラスなどのキッズモデルとして活躍してました。
俳優としてのキャリアは子役から始まって主なところだとキアヌ・リーヴスの『陽だまりのグラウンド』など、その後は様々なTVシリーズでキャリアを積んで、世間に注目されたのはやはりライアン・クーグラー監督の『フルートベール駅で』での主演ですね。
そして、その後に同じライアン・クーグラー監督の『クリード チャンプを継ぐ男』のアドニス・クリード役で一気に世界的な知名度と存在感を決定付けて、娯楽アクション大作であるMCU『ブラック・パンサー』でのかなり重要な悪役であるキルモンガーに抜擢されます。
ちなみにアメリカの映画ファンからはアニメ好きとしても知られていて、ツイッターで「ジョーダンはもう大の大人なのに両親と暮らしてて、アニメオタク」とバカにされると、ツイッター上でジョーダンは「悟空とナルト(アニメ好きなの)はマジだ」と言い切ってましたね。
そういえば日本だとテニスの大坂なおみ選手が全米オープン優秀した後アメリカのトーク番組に出演した時にマイケル・B・ジョーダンのファンだと言ったら、司会者が「ジョーダンの連絡先知ってるからあなたのこと紹介するわ」と言ってたその場で半ば強引なノリで撮った写メをジョーダンに送って、その後まさかのジョーダン本人から祝福のビデオメッセージが届いたことでちょっと話題になりましたね。
● ナキア
演:ルピタ・ニョンゴ
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダのスパイとして外の世界で活躍しながらも主人公の幼馴染で元恋人でもあるナキアを演じています。
両親はケニア人で、メキシコで生まれ現在はアメリカで活躍する女優さんです。
メキシコで生まれた後すぐ父親の仕事の都合でケニアに戻りそこで育ちます。
演技のキャリアとしては学生時代の舞台から始まりアメリカのハンプシャー大学で映画と演劇を学んだ後に、映画の製作スタッフとしても参加しながら短編映画『East River』に出演します。
その後ケニアに戻り、テレビシリーズに出演したり『In My Genes』というアルビノ治療についてのドキュメンタリー映画を製作・監督したりします。
その後はイェール大学の演技プログラムに参加し、様々な舞台作品に出演します。
そして2013年のスティーヴ・マックイーン監督によるアメリカ歴史映画『それでも夜は明ける』に出演、その後は『フライトゲーム』や『スター・ウォーズ シリーズ』のマズ・カナタや『Us』など様々な映画注目作で活躍していますね。
● オコエ
演:ダナイ・グリラ
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダ王国の国王親衛隊“ドーラミラージュ”の隊長、そして主人公ティ・チャラのボディガードを務めるオコエを演じています。ジンバブエ出身の両親からアイオワ州で生まれたアメリカの女優さんです。
舞台と映画でキャリアを積んだ後TVシリーズの『ウォーキング・デッド』のミショーン役で注目されます。
● エヴェレット・ロス
演:マーティン・フリーマン
(C)Marvel Studios 2018
劇中では今作の味方キャラで唯一の白人であるCIA捜査官のエヴェレット・ロスを演じています。
イングランド出身でイギリスの俳優さんで、2001年にイギリスBBCのTVシリーズ『The Office』のティム・カンタベリー役で有名になります。
その後、『ラブ・アクチュアリー』や『銀河ヒッチハイク・ガイド』など映画に出演し、2010のBBCのTVシリーズ『SHERLOCK(シャーロック』のワトスン役で世界的な知名度となり、それを受けてピーター・ジャクソン監督の『ホビット3部作』で主人公ビルボ・バギンズに抜擢されます。
最近だとTVドラマ版『FARGO/ファーゴ』などに出演しています。
個人的には、元々コメディ畑ということもありエドガー・ライト監督の『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』の演技も結構好きですね。
● ウカビ
演:ダニエル・カルーヤ
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダの“ボーダー族”のリーダーであり主人公ティ・チャラの親友であるウカビを演じています。
ロンドンで生まれたイギリスの俳優さんです。
『ジョニー・イングリッシュ気休めの報酬』や『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』や『ボーダー・ライン』などで脇役として出演してますね。
なんと言っても、2017年のジョーダン・ピール監督のホラー映画『ゲット・アウト』で主人公クリス・ワシントンを演じて一躍注目されるようになります。
● シュリ
演:レティーシャ・ライト
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、主人公ティ・チャラの妹でワカンダ王国の王女であり技術開発チームを率いる天才科学者のシュリを演じています。
ガイアナ共和国ジョージタウン出身のイギリスの女優さんです。
映画では他に『トレイン・ミッション』、あと『レディ・プレイヤー1』にもチョイ役で出演していましたね。
● エムバク
演:ウィンストン・デューク
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダの山の中に住み長い間ワカンダ王国とは距離を置いてきたジャバリ族のリーダーであるエムバクを演じています。
トリニダード・トバゴで生まれアメリカへ移住したアメリカの俳優さんです。
TVシリーズでキャリアを積み、今作『ブラック・パンサー』で映画出演を果たします。
その後は『アベンジャーズシリーズ』2作に出演しています。
● ウンジョブ
演:スターリング・K・ブラウン
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダの先代国王ティ・チャカの弟でウンジャダカの父のウンジョブを演じてます。
ミズーリ州生まれのアメリカの俳優さんです。
俳優としては地方の舞台からスタートし、様々なTVシリーズや映画などでキャリアを積みます。
特に、2016年から始まったNBCのテレビドラマ『THIS IS US』での演技が高く評価され、アフリカ系アメリカ人では初めてゴールデングローブ賞男優賞(ドラマシリーズ部門)を受賞しています。
『ザ・プレデター』にも出演してましたね。
● ティ・チャカ
演:ジョン・カニ
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ティ・チャラとシュリの父親であり、ワカンダ王国の先代国王のティ・チャカを演じています。
南アフリカの俳優さんです。
● ラモンダ
演:アンジェラ・バセット
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ティ・チャラとシュリの母親でありワカンダ王国の女王ラモンダを演じています。
ニューヨーク・ハーレム出身のアメリカの女優さんです。
『マルコムX』を始め、多数の映画やTVシリーズで活躍していて、1993年の『TINA ティナ』ではアフリカ系アメリカ人女優として初めてゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞しています。
● ズリ
演:フォレスト・ウィテカー
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダの王位継承の儀式を取り仕切る高僧で、先代国王のティ・チャカの側近でもあったズリを演じています。
テキサス州で生まれカリフォルニアで育ったアメリカの俳優さんです。
始めは俳優ではなくオペラ歌手を目指して南カリフォルニア大学でクラシック音楽と演劇を学んだ後、俳優の道へ進み数々の映画やTVシリーズに出演してキャリアを積みます。
『プラトーン』『バード』『クライング・ゲーム』など、まあ、今やベテラン俳優ですね。
特にイーストウッド監督作『バード』ではカンヌ国際映画祭男優賞を受賞してますね。
最近だと今作の監督ライアン・クーグラーの『フルートベール駅で』や、『メッセージ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などに出演しています。
● ユリシーズ・クロウ
演:アンディー・サーキス
(C)Marvel Studios 2018
劇中では、ワカンダ王国の資源であるヴィブラニウム鉱石の密輸を企てる武器商人ユリシーズ・クロウを演じています。
ロンドン出身のイギリスの俳優さんです。
舞台や映画でキャリアを積みます。
ピーター・ジャクソン監督の作品によく出演していて1番有名なのは『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムで、モーションキャプチャと言われる手法で(特殊なセンサーやマーカーを身体に貼り付けて実際の人物の動きをデジタル的に記録してCGの映像に反映させる)、それ以降は一流のモーションキャプチャアクターとしても大活躍してますよね。
個人的にはアンディ・サーキスのモーションキャプチャではリブート版『猿の惑星』のシーザー役がすごい好きです。
● ギャンブラー
演 : スタン・リー
(C)Marvel Studios 2018
韓国の釜山のカジノで遊んでいた老人を演じています。
言わずと知れた、アメコミ界の巨匠であり数々の人気ヒーローを生み出してマーベルの父と呼ばれるレジェンドです。
2018年11月12日に95歳でお亡くなりになり、MCU映画の恒例行事であったカメオ出演する謎の老人ももう観ることが出来ないと思うと残念です。
ヒットの理由を探る
MCU作品として
まずなんと言ってもこの『ブラック・パンサー』は皆んな大好きMCUの18作品目であり、当時はその最新作というわけでもちろん注目されるわけです。
しかも『キャプテン・アメリカ シビル・ウォー』のきっかけにもなってしまったウィーンでのソコヴィア協定の一件で、国王を殺害されたワカンダ王国のその後ということで気になりますからね。
ちょっとここでMCUについて1から説明すると時間が吹っ飛ぶことになるので詳しい説明は今はしませんが、『アベンジャーズ』に代表されるようにそれぞれ単体映画のヒーローがクロスオーバーしていく世界観が大きな特徴です。
いわゆるユニバースってやつです。
このユニバースってのは非常に楽しいやり方ではあるんですけど、作品の数が増えてくるのにしたがってどんどん続き物の要素が多くなってきて「映画の連続ドラマ化」してくるわけなんで一見さんにはハードルが高くなるところ『ブラック・パンサー』はクロスオーバーの要素も最低限なのでこの作品単体でもヒーローアクション映画として楽しめるんです!
極端な話、初めてMCUを観るというような人でも全然楽しめる作品だと思います。
画期的な黒人ヒーロー映画として
この規模の大作のヒーロー映画では主人公が黒人という設定は非常に珍しくて、MCUでは初めて、そして意外な事にディズニーでも初めてのことなんですよ。
更に黒人監督の手によって作られてるんです。
今までなかったのかって?
ウェズリー・スナイプス主演の『ブレイド』とかは浮かぶんだけどあれはどちらかと言えば変化球のダークヒーローで、今作のように王道のヒーロー映画、つまり今までなら当たり前のように白人が演じてきた類のヒーローを黒人キャストで作ったってのはほとんど例が無いんじゃないですかね。
僕が知らないだけかもしれないですけどね。
ちなみに黒人が主人公を演じると言っても、70年代に流行ったアフリカ系アメリカ人をターゲットにした黒人俳優が主役のブラックスプロイテーション映画の数々はちょっと違う流れだと思っています。
それだけじゃありませんよ。
監督も黒人、のみならず映画のスタッフもほとんど黒人で固められ、世界中から腕利きの人材を集めてきて作られた作品なんですよ。
あとキャストですね、この映画って主人公だけじゃなく主要からチョイ役に至るキャストのほとんどが黒人の役者さんです。
それも当然で、だって物語の舞台が架空の国とは言えアフリカのワカンダ王国のアクションヒーロー映画なんですから、画面に登場する人物のほとんどが黒人だけで構成されてるのも自然な事ですよね。
でも今まで誰もやってないんですよ、この規模とこのジャンルでほとんど黒人だけで作るってことを。
やはり興行的にも成功しないと思われてたんです。
で、それを見事に覆してみせたのがこの映画ということですごく画期的な作品なんです。
黒人による黒人のための王道作品という側面もあるとは思うけど、やっぱ射程はそれ以上に大きく「黒人だけで作った映画でも世界中の人々を楽しませることが出来ることを証明するんだ」という意気込みが作品からビシビシと伝わってくるのがまた良いんですよ。
となると、まず作品の土台ですよね、この舞台となるワカンダ王国が魅力的じゃないと話にならないわけです。
アフロヒューチャリズムの継承作品として
アフリカの奥地にある架空の国であるワカンダ王国。
まずこのワカンダ王国の描き方が新鮮なんです。
皆さんはアフリカと聞いてどんなイメージを持ちますかね?
野生動物だったり貧困だったり、何なら割と民族色の強い土着的なイメージを持ってる人も少なくないと思います。
テレビで見るアフリカはだいたいそんな感じ、って?
そういった部分も決して間違ってる訳じゃないんですけど、やっぱテレビのバラエティとかだと「僕らがイメージする(見たい)アフリカ」というのを拾ってきますからね。
でもそんな僕らだからこそ、なおのことこのワカンダ王国が新鮮に感じられるはずです。
なんたって、ものすごいオシャレでハイテクな未来都市として描かれてるんですから。
表向き(バリアの外)は正に我々がイメージする通りのアフリカの小国で、いざワカンダ王国に入ってみればヴィブラニウムという万能鉱石のおかげで世界一の科学文明を持つ国なのです。
しかもアフリカの民族衣装のカラフルなデザインや装飾がハイテクな科学文明と混ざり合っていて、そこが結構新鮮なんですよ。
(C)Marvel Studios 2018
(C)Marvel Studios 2018
ハイテクとアフリカンとの融合、ワカンダ王国
今言った、こういうワカンダ王国のような世界観って実は昔あったんです。
「アフロヒューチャリズム」と呼ばれ、主に音楽の世界のヴィジュアル・コンセプトや思想として表現されてました。
宇宙的な、SF的な、あとピラミッドとかね、そんなイメージの中で黒人アーティストがファンクを奏でるという凄くインパクトのあるヴィジュアルで、PVやCD/レコードのジャケットになってりしてたんですよね。
1番有名だと「アース・ウィンド&ファイアー」とかになるんですかね。
で、それを音楽じゃなく映画の娯楽大作で現在のクオリティで再現したのが『ブラック・パンサー』のワカンダ王国なんです。
でも実際のアフリカとこの映画のような「アフロ・ヒューチャリズム」とは違うんじゃないかって?
それがあながち違うとも言えないんですよ!
イメージの話に戻りますが、さっき言ったように僕らが思う昔ながらの「ザ・アフリカ」的なイメージは古くて、ここ10年20年かけて少しずつ豊かになってきて近年ではハイテク化もかなり進んでるんですよ。
分かりやすいところだとマサイ族にもスマホが行き届き、何なら副業でWebライターをやってる戦士もいるぐらいです。笑
なんでアフリカはこんなに変わったの、って?
そうですね、その辺は次で触れてみようかと思います。
(C)Marvel Studios 2018
アフリカ民族仮面とウーハースピーカーが混ざったデザインと機能の航空機。
アフリカの変化の象徴として
そもそもアフリカってまあ今でこそ発展途上国のようなイメージが定着してますけど、歴史上ずっとそうだった訳じゃないんですよね。
例えば昔、それこそ中世なんかはアフリカは文明も科学も発展していて、はっきりいってヨーロッパよりも全然進んでたんですよ。
むしろ中世ヨーロッパは最もキリスト教の影響と縛りが強い時期で、今では信じられないことに当時は世界の中でもどちらかといえば遅れている方だったんですよ。
今と逆で、隣接する中東の方が発展してたり。
『アラビアのロレンス』とか観ればまさにそんな感じで描かれていますね。
しかしその後、ヨーロッパで産業革命が起こったりして逆転されます。
そこから帝国主義の煽りを受けてアフリカはヨーロッパ各国に分割&植民地にされてしまうのです。
植民地時代のアフリカに対してヨーロッパ各国が行った事と言えば、奴隷制が無くなるまでは奴隷を好きなだけ持っていき、その後は資源を好きなだけ取っていく。
つまり、発展して潤っていたアフリカから養分を吸い尽くしてカラッカラにしていったんです。
そもあってアフリカの国々は植民地から独立した後も発展が遅れていったんですね。
しかし、ここ10年20年ぐらいはアフリカが自分の国の資源を正当に自分達の為に使えるように方々様々に力を尽くしたおかげで次第に豊かになってきているんですよ。
だから、まだまだアフリカは沢山の問題を抱えてますが少しずつ例えばハイテクを使って問題を解決することも出来るようになってきたわけです。
そういった背景もこの映画やワカンダ王国の世界観に反映されているんです。
あと、大事なポイントの1つに白人諸国がアフリカから搾取していった資源の中には地下資源というのが沢山あります。
金、銀、ダイヤモンドなどの鉱石です。
このアフリカの地下資源を表しているのが『ブラック・パンサー』においてワカンダ王国のヴィブラニウム鉱石というわけですね。
そういう意味でこの映画は、もしも白人諸国に植民地にされず資源を搾取されなかったら今頃更に発展してたかもしれないアフリカの姿をワカンダという架空の国として表しているとも言えるんです。
注目監督の世界デビュー戦として
この映画の監督はライアン・クーグラーという若手の黒人監督です。
カリフォルニア州オークランドに生まれて幼少期はフットボールに打ち込み、南カリフォルニア大学で映画を学んで卒業しました。
このライアン・クーグラー監督、僕らのような映画好きの間ではなんと言っても『クリード チャンプを継ぐ男』を作り上げた男としてその名を知られる監督ですよ。
あの『ロッキー』シリーズのまさかの続編を考え、誰にも頼まれてもないのに自ら脚本を書きあげ遂にスタローンと面会するに至るわけです。
そこで情熱の限りスタローンを説得するわけですよ、ロッキーの続編を作らせてくれと。
長編映画を1本も撮ったことない、この間まで学生だったような監督がですよ?笑
だから当然スタローンも乗り気になれず、この話は流れるわけです。
いくら情熱があってもあれだけ綺麗に終わった『ロッキー・シリーズ』の続編を作らせるにはどう考えてもこの若者には力不足だと思ったんですね。
そこでクーグラー監督は初めて1本の長編映画を作るんです。
『フルートベール駅で』という映画を、これは実際に2009年にオークランドの地下鉄フルートベール駅で起こったオスカー・グラント3世射殺事件を描いた作品です。
これが低予算の作品ながらとても評価され、その年のカンヌ国際映画祭“ある視点部門”の作品賞を受賞するまでに至ったんですよ。
ちなみにこの時に、その後クーグラー監督作品の常連となる盟友であり俳優のマイケル・B・ジョーダンと出会います。
そうやって監督としての実力を見事に証明して、実績を作って再度アタックしてようやく『クリード チャンプを継ぐ男』を作ることが出来て、いざ公開されると劇場で多くの観客をボロボロに男泣きさせる傑作となるわけです。
そんなライアン・クーグラー監督が長編映画3作目にしてまさかのMCU映画の監督に大抜擢、スケールもバジェット(予算)も段違いでなおかつ世界の幅広い観客を相手に映画を成功させないといけない、つまり全世界に向けて監督デビューする。
そんな状況でクーグラー監督は『ブラック・パンサー』をどんな作品にするのか注目する人も多かったのです。
ブラック・ミュージック映画として
この映画、劇中で流れる音楽の使い方をとても大事にしています。
なぜならブラック・ミュージックも、黒人文化や歴史を背景に作り込まれる『ブラック・パンサー』には欠かす事のできない要素だからです。
選曲もその場面場面でちゃんと映画のシーンと意味が重なるように使われています。
そのクオリティは、クーグラー監督作品を毎回手がけていてしっかり分かっているルドウィグ・ゴランソンの音楽と、もう1人今作ではケンドリック・ラマーの存在も大きいですね。
ケンドリック・ラマー作品として
ケンドリック・ラマーといえば現在アメリカのヒップホップシーン、いや音楽業界において最も重要な人物の1人と言っても過言ではない存在でここ数年の知名度の上がり方もハンパないので曲は知らなくても名前は聞いたことあるという人も多いと思います。
そのケンドリック・ラマーがこの『ブラック・パンサー』で使われる劇中の曲をいくつか手がけたり新曲として書き下ろしたりしてるんですね。
それだけじゃなく、クーグラー監督が熱望して映画のサウンドトラックの監修もケンドリック・ラマーが行なっています。
面白いのが、映画のサントラでもありインスピレーションアルバムにもなっていて、完成してみればある意味でケンドリック・ラマーの新アルバムのような感じになってるところですね。
アルバム『DAMN.』の次を待ちわびてる世界中のファンにとっては、まさか映画の方向からケンドリック・ラマーの新作が聴けるということで注目されたんです。
『ブラック・パンサー』というテーマからアルバム1枚作れてしまうぐらいケンドリック・ラマーがインスピレーションを受けたってことですね。
それはなぜか、って?
『ブラック・パンサー』という作品のテーマの部分と、ケンドリック・ラマーが今までラップで表現してきた内容が共通するところが多かったからじゃないですかね。
理想と現実、普遍的な問題として
さっき言ったケンドリック・ラマーですが、カリフォルニア州コンプトンで生まれ育ち、昔のコンプトンですからね治安もヤバくて周囲の友達は皆ギャングを選んでいく、そんな環境の中で、過酷な現実と気高き理想の間で葛藤している様子が色々な形の二面性として歌詞に表れています。
この理想と現実、その二面性というのがまさに『ブラック・パンサー』における穏健な理想派ティ・チャラと過激な現実派キルモンガーなんですね。
これは現実でも普遍的な問題で、例えば黒人の歴史として理想を掲げ世界を変えようとするキング牧師と、現実の過酷さを暴力で世界を変えようとするマルコムX、この2つの考え方の対立は当然『ブラック・パンサー』の下地の1つになってるわけですが、ケンドリック・ラマーという1人の人間の中にその2つの考えがあるから葛藤するんです。
ティ・チャラもキルモンガーもどっちも俺だよ!ってことですね。
ていうか人間誰だって二面性があると思うんですよ、それを隠さないケンドリックの歌詞に皆は共感するし勇気づけられ、時には考えさせられるわけです。
だからティ・チャラとキルモンガー、この2人は鏡のような関係なんですよ。
環境や歴史の掛け違えによっては逆の立場になっていた可能性だって全然あり得る2人なんです。
だからこそティ・チャラはキルモンガーを正面から受け止めなければならないんですよ物語上の展開でも作品テーマとしても、だって彼は「自分」でもあるから。
それが分かっているから次は逆にキルモンガーもティ・チャラを正面から受け止めるしかなくなるんですよ。
そこがキルモンガーは、敵としてとても魅力的なキャラクターになってると思いますね。
ケンドリック・ラマー1人の心の中にこの2人が居るように、あれだけ激しく対立するティ・チャラとキルモンガーが目指すものは結局は同じなんです、1つなんですよね。
対立していたキング牧師とマルコムXが最後の方では実は歩み寄ったように、目指すところが同じならば歩み寄ることもできるはずです。
これって僕らの心の中の葛藤でも同じことで、何か理想と現実との間で葛藤して、そこから1歩前に進めた時って多分心の中で2つの考えがお互い歩み寄ってるんですよ。
じゃないといつまで経っても何1つ前に進まないですよね。
1人の心の中でもそうだし、人と人、国と国でも同じことなんじゃないかと思います。
だからこの『ブラック・パンサー』では、黒人の歴史的な背景を象徴した諸々の設定や物語を通して誰にでも当てはまる普遍的な問題というのをちゃっかり描いてるのが凄いと思いましたよ。
ティ・チャラとキルモンガー、地下鉄道での2人の最後の戦いはお互い歩み寄る為の大事な過程に見えました。
もう僕なんかあれですよ、過激な現実路線のキルモンガーの最後のとあるセリフなんか聞いた時はね、「なんだよ、それってお前が1番理想追いかけてたんじゃねえかよ…バカ野郎…」と思ってもう涙が出てしまいましたからね。
なんて純粋で不器用なやつなんだって、もうね…ん?
僕の涙の話はどうでもいい、って?
まあ、そりゃそうですよね。笑
でも観終わってから、映画の冒頭のワカンダ王国の歴史をおとぎ話として説明するシーンを観返すと印象が変わり、誰が誰に対して語ったおとぎ話かを考えるとちょっと泣けてしまいますよね。
おわりに
どうですかね、『ブラック・パンサー』がなぜここまでヒットしたのか分かってもらえたでしょうか。
この映画のもう1つ大事なメッセージとして対立するもの同士が歩み寄ろうにもお互い何を目印に踏み出せばいいか分からない時は、「愛」を目印にしようよ、と言っていますね。
この映画では「歩み寄りのシーン」というのがいくつもでてきますが、その時に必ず何らかの愛が目印として双方を取り持ってくれているんですよね。
分かりやすいところだと、終盤のワカンダ王国の政治的混乱の中で恋仲同士で対立することとなったオコエ(ダナイ・グリラ)とウカビ(ダニエル・カルーヤ)、お互いがワカンダの為を思っての行動した結果恋人同士で戦うことなってしまった2人が歩み寄って戦いを中止するその目印にしたのは愛でした。
そしてやっぱ映画の最後ですよね。
カリフォルニアはオークランド、まるで幼き頃の頃のキルモンガーを思わせる少年に対してティ・チャラが語る物語は、憎しみよりも愛を選ぼうぜということなんですから!
しかも、それを直接劇中のセリフで言うのではなく、その直後に流れるエンディング曲の歌詞の中で語るとかもう、『ブラック・パンサー』という題材に対してほんと気の利いた作りですよね。
この記事もそのエンディング曲と例の掛け声で締めたいと思います。
ワカンダ・フォーエバァー!