『ルーム』
第88回アカデミー賞
★主演女優賞
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
原題 : 「Room」
公開年 : 2015
製作国 : アメリカ・カナダ・アイルランド・イギリス
監督: レニー・アブラハム
製作: エド・ギニー、デビッド・グロス
製作総指揮: アンドリュー・ロウ、エマ・ドナヒュー、ジェシー・シャピラ、ジェフ・アーカス、デビッド・コッシ、ローズ・ガーネット、テッサ・ロス
原作: エマ・ドナヒュー
脚本: エマ・ドナヒュー
撮影: ダニー・コーエン
美術: イーサン・トーマン
衣装: リア・カールソン
編集: ネイサン・ヌーゲント
音楽: スティーブン・レニックス
キャスト: ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アラン、ショーン・ブリジャース、ウァリアム・H・メイシー、トム・マッカムス
ルーム、そういえば子供の頃に自分の部屋をカッコつけて言う時にそう呼んでましたね〜。
それまでは兄弟が3人いたのに一緒の部屋でね、早く自分専用の部屋が欲しくしょうがなかったんですよね。
中学に入ると同時に自分の部屋をもらった時にはやっぱ嬉しくて、下の兄弟達に「俺のルームに勝手に入るなよ」とか言ったものです。
カッコつけたい年頃だし、丁度英語の授業も始まったもんだから「ちょっとルームでスタディーしてくるから、ディナーになったらコール・ミーしてね」なんて普通に家族に言ってたわけですけど、マジ、すぐ飽きて本当に良かったと思います。笑
あのまま大人になってルーの一族になるところでした。
なんの話でしたっけ?
そうそう、これは、もっと感情を揺さぶられるハードな部屋のお話の映画ですね。
今からちゃんと紹介したいと思います!
ラストまでプリーズでリードして下さい!
あらすじ
とある狭い部屋で暮らす5歳の男の子ジャックと、母親のジョイ。
彼女はオールド・ニックというクズ男にこの部屋に7年も監禁されていて、そこで産まれたジャックに世界は部屋の中だけしかないと教えて、暮らしていました。
その極限の状況の中で、毎日規則正しい生活とお決まりのルーティンの中にささやかな楽しみを見出し、なんとか人間らしさを保っていました。
それはジャックの為に、という、母親ジョイのとても強い意志でした。
しかしジャックが5歳になり成長していくにつれて、このままだとやがて限界がくることを少しずつ感じていたジョイ。
とあるきっかけでついに脱出を決意し、5歳のジャックとともに全てをかけて脱出作戦を決行します。
ジョイとジャックの演技に見えない母子の演技。
ジャックを通して初めて見る外の世界。
本当の意味での部屋からの解放。
その辺を注目して観ると楽しめると思います。
主要人物キャスト
● ママ/ジョイ・ニューサム 役
演: ブリー・ラーソン
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
カリフォルニア州サクラメントで生まれたアメリカの女優さんです。
コメディ番組から始まり、その後は色々なテレビドラマや映画に出演します。
2013年に映画『ショート・ターム』の主演で注目され、今作の『ルーム』ではアカデミー主演女優賞を受賞しました。
そして、『キングコング: 髑髏島の巨神』『キャプテン・マーベル』『アベンジャーズ /エンドゲーム』など大作映画にも出演するようになります。
● ジャック 役
演: ジェイコブ・トレンブレイ
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
カナダのバンクーバーで生まれたカナダの俳優さんです。
2013年からテレビドラマや映画に子役として出演し、今作の『ルーム』での天才的な演技が評価されてブレイクします。
その後は『ワンダー 君は太陽』や『ザ・プレデター』などに出演します。
● ばあば/ナンシー 役
演: ジョアン・アラン
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
アメリカ、イリノイ州出身のアメリカの女優さんです。
舞台で活躍した後に1986年に映画デビューします。
代表作だと『ニクソン』や『カラー・オブ・ハート』などがありますね。
『ザ・コンテンダー』ではアカデミー主演女優賞にノミネートされています。
近年だとマット・デイモンの『ボーン・シリーズ』でのCIA上官のパメラ・ランディ役で観たことのある人もいると思います。
● オールド・ニック 役
演: ショーン・ブリジャース
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
アメリカ、ノースカロライナ州出身のアメリカの俳優さんです。
テレビシリーズで数多く出演した後に映画にも出演していて、『砂上の法廷』や『マグニフィセント・セブン』にも出演していましたね。
● じいじ/ロバート 役
演: ウィリアム・H・メイシー
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
アメリカ、フロリダ州マイアミ出身のアメリカの俳優さんです。
舞台で活躍しながら映画やテレビドラマにも数多く出演しています。
テレビドラマ『ER緊急救命室』のデビッド・モーガンスタン役でも知られてましたが、コーエン兄弟による1996年の映画『ファーゴ』での情けない主人公の役で一気に注目されます。
その後も数多くの映画に出演し、『君が生きた証』という作品(重たいけど個人的に忘れがたい映画です)では監督も務めていますね。
● レオ 役
演: トム・マッカムス
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
カナダの俳優さんです。
『コンフィデンスマン/ある詐欺師の男』を始めいくつも映画に出演しています。
☆3分でサクッと読みたい人はこちら☆(ネタバレなし)
何度も感情を揺さぶられました。
内容だけ取り出すとすごいハードな話なんですよ。
だって、17歳で見知らぬ男に拉致されて部屋の中で監禁され、しかもその男の子供を部屋で産んで育てている母親とその事実を知らずに育てられた息子の話なんですからね。
でもこの映画って、単に「こんな悲惨な事がありました、さあ悲しんでください」というだけの作品じゃないんですよ。
そういうイメージでまだこの映画を観ていない人がいたら非常にもったいないですよ!
まずこの映画は前半1時間が監禁生活からの脱出劇、後半1時間は外の本物の世界での話という2部構成のような作りになっています。
おそらく普通の「監禁事件からの脱出」を扱ったような映画なら脱出に成功でハイめでたしで終わりなんですけど、この作品は脱出した後も人生は続くんだからということを後半1時間でしっかりと描いているんです。
むしろ、その部分がこの映画の1番のテーマになってるんですよ。
何度も感情を揺さぶられると初めに書きましたが、それはもちろん役者の演技が素晴らしいからです。
特に、7年監禁されているジョイを演じたブリー・ラーソンの役作りと、5歳のジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの天才子役っぷりは映画を観た人誰もがすごいと思うはずです。
初めて外の、本物の世界を知って体験していくジャックから目が離せません。
そして7年ぶりに部屋から外に出ることができた母親のジョイの苦悩も描かれます。
その2人の周りの家族も。
7年ぶりに家族の元へ帰れたとはいえ、1度は壊された家族、全てのピースが元どおりにハマる訳じゃなく、けして元に戻らない事だってあって、それも全部含めて生きていかなきゃいけない。
それはすごい大変だけど、ジョイとジャックの成長に寄り添って観ていると、それでもこの世界は生きるに値すると思わせてくれる映画です。
なんの予備知識も無くフラッと観ても、ちゃんと観る前よりも世界に対して一歩踏み出せる気持ちへ観客の手を引いてくれるような良く出来た作りになっているんで、結構ハードな内容だけど誰でも安心して身を任せて観れる映画じゃないかなと思います。
★もっと知りたい人はこちら★紹介・解説(ネタバレあり)
原作小説との違い
この映画には原作があって、エマ・ドナヒュー作の『部屋』という小説です。
オーストラリアで実際に起きた「フリッツル事件」に影響を受けて書いた小説です。
原作小説との違いなんてタイトルを書いといて言うのもあれですが、原作小説をそのまま見事に映画化した作品なんですよ。
原作小説は監禁生活から脱出までを描く「インサイド」と、外の世界へ出てからの「アウトサイド」という2巻に分かれていて、この構成は映画『ルーム』でも同じで2時間の作品のうち前半1時間がインサイドで後半1時間がアウトサイドになっています。
あと大事なポイントとして、小説はジャックの一人称視点で描かれます。
そこで面白いのが、始まりから終わりまで一貫して5歳児のジャックの言葉使いで文章も書かれてるんですよね。
え、読みにくそうだって?
まあ否定はしません。笑
だけど、ハマるとそれが物語と合ってるように感じれて違和感なくなるし、ジャックの文章でしか味わえない感動もあるんですよね。
ちなみに「アウトサイド」ではジャックの一人称視点ならではの笑いが沢山あって好きですね〜。
ちなみに、もちろんジャックが知らない事は文章ではっきりとは描かれません、しかし大人ならそれが何なのか分かってしまうところに想像力を掻き立てられるしスリリングだと思いました。
小説版と映画版を見比べてみて、全くと言っていいほど同じような色の感動を受け取りました。
それもそのはず、この『ルーム』の脚本自体も小説の作者エマ・ドナヒューが手がけているんです!
そりゃ小説版も映画版も同じ色になるわけです。
しかし、それでも違いはあるんですよね。
同じ物語を描くにあたって、小説ならでは、映画ならでは、のやり方の違いというのは確実にあって、その違いがとても楽しい部分なんです。
監督もインタビューで、エマ・ドナヒューは自分の原作小説を映画として再構築することにとても理解を示してくれていたと言っていたように、映像という特性を活かした脚本になってたと思います。
僕の場合は映画版を先に観た後で、小説版を読んだんですが、実は映画版は色々と省略してたんだなあと思いました。
大きなところだとジョイ(ママ)の兄(とその家族)の存在はバッサリ無くなってましたね。
小説版だと、監禁されていて特殊な家族生活しか送れなかったジョイとジャックの対比である普通の家族として登場してましたが、映画的により大きなテーマを伝えるのには不要としてバッサリ無くしたのはスマートで良かったと思います。
あと小説版だと当然ながら、あらゆるものに反応するジャックのセリフや心情が文字でつらつらと書かれていて、その細かいディテールがいちいち面白いしかわいいんです。
映画版でもジャックのキュートな心情ナレーションが炸裂する場面も物語のアクセントとしてちょこっとありますが、基本的に小説版での文字で伝えていたディテールは映像や役者の演技の中にスッと取り込んで一瞬の表情や仕草で幾多もの要素がパッと伝わるのが映画版の特徴ですね。
それを可能にするのが、映像であり、なんと言っても役者の存在ですよね。
天才子役とアカデミー母さん
とにかくあの原作小説を映画化するさいに、成功の鍵を握るのはママとジャックですよね。
ここが嘘っぱちに見えてしまったらどうにもならないのです。
そこを見事にやってのけたのが主演のブリー・ラーソンと子役のジェイコブ・トレンブレイです!
まずママ/ジョイ役を演じたブリー・ラーソンですよね。
まず見た目が素晴らしいんです、役作りとして本当に太陽光を浴びない生活をして色白になり、あえて運動をせず食事制限だけで不健康な痩せ方をし、もちろんノーメイクで、ちゃんと7年間部屋の中に監禁生活を送ってきた女性に見えるんですよ。
そして、2時間のあいだ画面の中に映る顔、映画の主役としての華も兼ね備えているこのバランスは見事でしたね。
本来はどちらかと言えば、『キングコング』や『キャプテン・マーベル』でも分かる通り、健康的なビジュアルが印象的な女優さんですからね。
そう思うと今作の真逆の役作りはすごいですよね。
そしてエイブラハムソン監督は役作り中のブリー・ラーソンの元へ何度も足を運び、話を聞いて信頼関係を築いていったようです。
そしてもう1人、ジャック役を演じたジェイコブ・トレンブレイですよね!
もう見事としか言いようがないですよね。
ある種ドキュメンタリックなカメラワークも相まって、もはや演技だという感覚が頭から消えてしまったって人も多いんじゃないでしょうか。
何気ない仕草とか目線とか、5歳のジャックとしてとても演技とは思えない自然さでした。
作品のテーマ性もあって、前半1時間はジャックの声や見た目の中性的な部分が強調されていてめちゃくちゃかわいらしいんですよね。
1番の見どころは、その2人の役者がほんとに母子に見えるって事です。
インタビューによれば2人は撮影が始まる前に1ヶ月近く一緒に過ごしたようで、実はその時に遊んで描いた絵や作ったオモチャが劇中の「部屋」の中に貼ってあったり置いてあったりしてるんですよ。
ちゃんと2人の歴史というのを「部屋」に入れ込むことで撮影空間の役作りにもなってるわけですね。
しかし、母親役と子役の2人が事前に良い関係性を築けば必ず映画の中で本当の母子のように見えるのかというと、そうではありません。
もうひとつ大事な存在、監督を始めとする作り手の存在も必要不可欠です。
エイブラハムソン監督によれば、子役のジェイコブ・トレンブレイとの撮影に関して1番大事にした事は信頼関係だと言ってます。
子役を決して上から目線で見ない、操ろうとしない、一緒に作業にするんだ。とインタビューでも答えてます。
つまり、ブリー・ラーソンとジェイコブ・トレンブレイと作り手の信頼の三角関係が上手くいったからこそ、ほんとに自然体な母子の演技をカメラに収めることができたわけですね。
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
本当の母子のようにしか見えない
ジャックの目線とカメラワーク
小説版も映画版も、とことんジャックの目線で描かれています。
小説版ではジャックのそのまんまの言葉が一人称語りとなって書かれています。
それによってジャックから見た世界というのを描いてますね。
そこを映画版ではどうやって表現しているかというと、まさに映画らしくカメラワークで表現しているんです。
ある意味では、この作品のテーマやジャックの成長を全てカメラワークで表していると言ってもいいかもしれません。
「部屋」の場面では、手持ちカメラで常にジャックとママに異常に近い距離で映しています。
手持ちカメラゆえの揺れだったり呼吸が伝わる感じだったりが効果的に働いて、すごく密着しているような感覚になります。
少し離れた部屋の奥はピンボケにしてあったりね。
そして、「部屋」の全景は決して映さないんですよね。
狭さを感じさせないように巧みに撮影されてるんです。
つまり、ジャックにとってはこの世界は「部屋」の中だけだと教えられて育ったから、比較するものも無いからこの場所が狭いという感覚も無いんですよ。
そのジャックの感覚を観客にも共有できるように工夫されたカメラワークになってるんですね。
そして後半、「部屋」から脱出してからはそれまでとは逆にジャックとママをちょっぴり離れた場所から映すようなカメラワークが増えてきます。
それと同時に、手持ちカメラで揺れ場面も減り、固定カメラで揺れずに安定したカメラワークが増えていきます。
それは当然、本物の世界へ出たことでジャックの中の世界が広がったからですね。
今まで「部屋」の中だけだったのが、外へ出て見たこと無い色々なものを見て聞いて触って成長していくジャックに比例するかのようにカメラワークも引きの画とその距離も長くなっていきます。
そこで興味深いのが、外の世界に出てからもママと2人っきりの場面になると急に「部屋」で暮らしてた頃のカメラワークに戻るんですね。
手持ちカメラで揺れて不安定で密着するような距離になって2人以外の部分はピンボケで。
つまり、外の世界に出れたけど、この2人は内面的にはまだ「部屋」の中にいる状態なんだということが分かります。
本当の意味であの「部屋」から解放されていないんですね。
ジャックが今まで見たことの無い新しい世界に戸惑って子供心ながらに「部屋」に帰ろうよと言うのはあるいは自然なことかもしれませんが、ママ/ジョイまでも自分の人生を奪った「部屋」の呪縛にまだ囚われているのが、監禁事件の恐ろしさだとおもいます。
脱出して“めでたしめでたし”なんかじゃなくて、そこから人生を取り戻すのが大変なんだという事をしっかりと描いています。
最後もカメラワークで持って行きますね、この映画は。
ジャックとママは警察に頼んで自分達が監禁されていた「部屋」を見に行くんです。
そこで初めて部屋の全景をカメラが映します。
そこにあったのは「世界」ではなく、狭くてちっぽけな、ただの「部屋」でした。
ジャックは「本当に僕たちがいた部屋?」とママに問いかけます。
「そうよ」とママが言った後、ジャックは「部屋」の家具や窓や天井にバイバイをして出ていきます。
そしてママも「グッバイ、ルーム」と“内緒の声”で言って部屋を出ます。
そして2人が外へと歩いていく場面を映画の中で1番のロングショットで上に昇りながら映したカメラワークで終わります。
そうやってジャックの成長と、2人が本当の意味でようやく「部屋」から出れて瞬間をカメラワークで表現してるわけです。
あの場面はジャックとジョイ/ジョイにとっては「部屋離れ」であり「乳離れ」、それは1つの成長の過程なんですけど、それともう1つ「観客離れ」でもあるんですよね。
だってこの映画であの2人に1番寄り添って見守っていたのは我々観客なんですよ!だからついに2人の姿が遠くになり観客からも離れて世界に混ざっていく様子は、嬉しくもあり寂しくもあります。
素晴らしいラストですね。
つまりこの作品は、前半1時間が肉体的に「部屋」から解放されるまでのお話ならば、後半1時間は精神的に「部屋」から解放されるまでのお話ということです。
ジャックから見た世界
この映画はジャックから見た世界で描かれているのは分かってもらえたと思いますが、それはどんな世界で、どう感じていくんでしょうか。
今となっては当たり前で僕ら観客も忘れてしまったけど、かつて幼い頃に体験したはずの世界との「こんにちわ」を、ジャックを通して新たに知り直すというのもこの映画の醍醐味の1つです。
子供ってこんな切り口で世界を見るんだ!という新鮮さが面白いですね。
今まで「部屋」の天井の高さが世界の上限だったジャックが脱出の途中でトラックの荷台から本物の空を見上げた時に吸い込まれそうになったジャックの言葉にならない感動を、僕も擬似的にも再体験出来るのは映画ならではだと思いました。
たしかに5歳で初めて青空を見たとしたら、あまりにデカすぎて凄すぎて訳わかんないだろうなと。笑
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
初めて見る空の大きさに圧倒されるジャック
ママ/ジョイの苦悩
「部屋」から脱出できて、犯人も捕まって、ようやく自由になったジョイですが、過ぎた7年という歳月が苦しめます。
彼女にとって外の世界は7年前で止まっていますが、外の世界、つまり彼女の家族やそれを取り巻く環境は変化しているんですよね。
彼女の両親は自分の娘が行方不明になったことが原因でおそらく離婚し、それでも悲しみからなんとか前に進もうと一度壊れた人生を修復しながら7年積み重ねてきました。
そこへ7年間を飛び越えて両親(外の世界)に急に合流することになったジョイにとっては、私が苦しんでいる7年の間結局みんなは楽しく生活してたように感じてしまい、つい衝突してしまう場面は心が痛みますね。
だって本当は、憎むべき相手は犯人だけのはずなんですからね。
あと思ったのは、ジョイは前半1時間ではジャックの母親としてすごく強い女性に見えましたが、外の世界に出て自分の母親と衝突する場面ではジョイは10代の子供に戻るんですよ。
それもそのはずで、7年前拉致された時は17歳で、母親との関係性ではそこで止まっているわけですからね。
つまり、「部屋」の中では“ジャックの母親”としてだけの側面しかなかったのが、外の世界に出ると自分がまだまだ母親の子供(17歳)だという側面が復活して、子供である未熟な自分と母親である自分との間で板挟みになっちゃうんです。
だからこの映画の後半1時間はジャックよりも、むしろママ/ジョイの方が精神的に追い詰められていくわけですね。
そんなジョイの苦悩する姿を観てたら、やっぱ現実社会とも照らし合わせて、子供の状態で親になることの精神的負担みたいなものを色々と考えてしまいますね。
あとは、「部屋」にいた頃とは逆に、今度はジャックがママ(自分以外の人)の事を考え心配して支えてあげるという成長の描き方も良いですよね。
監禁される前のように全て元どおりに戻るには7年という歳月は長過ぎて、元に戻らない部分もあるんですよね。
そこを担っていたのがジョイの父親だったと思います。
そういった元に戻らない部分も、一旦受け止めた上で前に踏み出すというのはリアルで重みがありましたね。
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
7年振りに両親と再会するも…
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
母親の前では17歳に戻るジョイ
世界をどう見たい?
この映画って、7年間もの拉致監禁生活の中で犯人の子供を産むというハードな題材です。
同じ題材でも、もしもママ/ジョイの視点で描かれていたらカメラワークから作品テーマから、また違った映画になっていたのかなと思います。
正直、世の中の厳しさが際立つかなりキツイ印象を残す映画になったかもしれません。
しかし、この映画はジャックの目線で描かれています。
つまり、世の中には綺麗事だけじゃない憎むべき事も沢山あるのを踏まえた上で、それでもあなたは世界をどっちの側から捉えたいですか?という問いに対してポジティブな方を選んでるわけですね。
だってそれは、自分の子供にどっちの側から世界を見て欲しいですか?という事にもそのまま反映されるんですから。
それはママ/ジョイがジャックを育てる時の姿勢そのものですよね。
ジャックは自分が不幸な状況だと思っていません。
真っ白な状態から世界と触れ合って、色々のものに感動していきますよね。
そのジャックの様子がこの映画では周りの大人達にも影響を与えています。
早い話が、世の中はクソッタレだよなんてジャックには言えないですよね。笑
それが大事で、たとえジャックと接する時だけでも、無意識に彼に合わせた世界の捉え方をしますよね。
純粋に世界って良いな、面白いな、それは大人にとっては貴重な感覚だと思います。
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
初めて世界に触れる
終わりに思うこと
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
部屋という世界の限界
母と子供と世界の物語としてとても胸を打つ映画でしたね。
誰もが感動するだろうし、観て欲しいと思いました。
公開当時に観た時はそういう印象の強い作品でしたね。
この記事を書くにあたって久しぶりに観返したんですけど、また違う印象も感じたんですよね。
もちろん母と子の物語に胸を打たれながらも、そもそも「部屋」ってなんだろうって思ったんです。
例えばジョイ/ママとジャックがあのまま「部屋」の中で一生を終えたらどうなるんだろう?全然問題なかったりして、とか。
ジャックでもジョイでもなく、この映画のタイトルは『ルーム』で、原作小説のタイトルも『部屋』なんですよね。
今更そこに興味がわいたんです。
その大勢の人が持ってるであろう部屋ですけどね、ちなみに冒頭でも言った通り僕にも部屋はありました。
プライバシーは尊重されるべきと考える方なので、ちゃんと自分の部屋があるというのは大人だろうが子供だろうが大事だと思っているんですけど、それはあくまで外の世界があってこその部屋の役割だと思います。
部屋の外側があって、初めて部屋の意味が生まれます。
部屋はある意味で自分を守ってくれる存在だけど、部屋の中だけで人生を完結させることなんて出来ません。
仮に、もしそうしようと思ったら、その人にとってそこは部屋ではなく「世界」になるわけですね。
その「世界」で生きる人が日本だけじゃなく世界的に増えてきてるようなんです。
しかし残念ながら、その「世界」は大半の人間にとっては狭すぎます、かならず限界が来ます。
それは肉体的にも精神的にも。
なぜなら「世界」には物理的な広さと、沢山の人がやっぱ必要なんですよね、面倒でも、煩わしくても。
そしてやはり、この映画『ルーム』でも「部屋=世界」の限界が来ますよね、ついに究極の2択を迫られる状況が来るわけです。
それはストレートに言ってしまえば、ここで死ぬか、死ぬ気で外へ出るか、です。
不確かな世界を母と子の絆を通してポジティブに捉え直す姿勢を、この作品の表のテーマだとしたら、自分の「部屋=世界」に引きこもってしまった人が意を決して外に出てなんとか本物の世界へと戻っていくのが裏のテーマだと思います。
だからこそ作品の半分を使ってでも、死ぬ気で外に出る価値があると、「世界は生きるに値する」と描く必要があるんです。
その裏のテーマ声高に叫ぶでもなく、表のテーマに紛れ込ませてるのも良いなと思いました。
優しいですよね。
部屋から出ろと強引に説得するんじゃなく、自分から少しでも外の世界って良いかもなと思ってくれる方に期待するという。
もうこの映画を観たことある人でも、この角度からもう一回観てみるとまた違った印象を感じるかもしれませんよ。
とりあえず、この映画ってべつに小難しい背景とかないので何も知らなくていきなり内容の100%近く楽しめるタイプの作品だと思います。
なんの予備知識を入れなくても誰もが心を打たれ、観る前よりも絶対にちょっぴりは世界が良く見える映画だと思います。
ぜひ観てくださいませえ〜!
公式ホームページを貼っときます。