『ホワイト・ヘルメット シリアの民間防衛隊』
第89回アカデミー賞(2017)
【短編ドキュメンタリー映画賞】
原題:The White Helmets
2016 / イギリス 上映時間40分
監督:オーランド・ボン・アインシーデル
製作:ジョアンナ・ナタセガラ
製作総指揮:ジェイソン・スピンガーン=コフ、 アダム・デル・デオ、 リサ・ニシムラ
撮影:フランクリン・ダウ
編集:マサヒロ・ヒラクボ
音楽:パトリック・ジョンソン
これはですね、ドキュメンタリー映画です。
しかも短編ドキュメンタリーだから40分でサクッと観れちゃう。
なのに得るものは大きいというコスパの良さ、それがこの作品も受賞したアカデミー賞【短編ドキュメンタリー映画賞】なのです!
そしてこの映画、空爆の絶えないシリアの中で救助活動を行うボランティア団体“ホワイトヘルメット”の日々の活動に密着したドキュメンタリーです。
シリアで化学兵器のサリンが使われたってニュースでやってた気がする?
そうです、そのシリアです!
この映画では、まだサリンが使われる前の段階なんだけどそれでも酷い状況が映し出されるんですよ。
あの状況の中で、更にサリンを使われるということはどういうことか…巻き込まれる一般市民のことに考えが及ぶ、そんな作品です。
2016年に英国で製作されNetflix配信、配給(小規模劇場公開)された作品です。
それが賞を獲るというのも時代の流れを感じますね。
お!40分なら観てみようかなって?
いいですね〜、では見所を紹介しましょう。
そもそもシリアってなんで内戦してるの?
まずそこですよね、その辺がぼんやりしてる人もいると思うんで最低限の所だけ大雑把に説明しますね。
まず、世界には独裁国家が沢山あります。
え?沢山ありますよ!
例えば、僕らの住む日本の周りだと北のミサイルマンの国やパンダの産地のでっかいあの国など、独裁国家です。
それで世界の中でも、歴史的な背景からアラブ中東地域には特に独裁国家が多くて、その中の1つにチュニジアという国があります。
え、シリア関係ない?
いやそれが関係あるんですよ!
とりあえず2010年12月にチュニジアで1人の青年が役人のあまりの横暴さに体制側に抗議する意味で焼身自殺します。
そこから、その怒りというのがSNSという新たな市民のツールの影響もありどんどん広がっていき、やがて大きな暴動となり国内全土に及んでついには独裁政権の崩壊にまで至ったのです。
この民主革命をチュニジアを代表する花のジャスミンの名を取り“ジャスミン革命”と言います。
そうなると、周辺の独裁国家の国々で不満を溜め込んだ人々が
「え?革命って成功するもんなん?俺たちもやろうぜえい!」
「うぉぉおおぉ〜!」
という感じで、このジャスミン革命に影響を受けて民主化運動の動きがアラブ中東地域に一気に広がっていくのがいわゆる“アラブの春”という現象です。
そしてアラブの春がシリアにも広がり、現独裁政権であるアサド政権に反対する運動が広がっていったんですね。
そしてとうとうシリア政府軍と反体制派との間で武力衝突が起こり内戦へと進んで行くのです。
まだそこまでなら政府vs.反政府の構図として分かりやすいんだけど、そこからが問題でシリア国外から様々な勢力が参加して政府側や反政府側にそれぞれ加担していくんだけど、そういう状況を、決定的に複雑にしたのがISIL(自称イスラム国)の参入ですね。
領土と勢力を拡大したいISIL(自称イスラム国)はシリアが2つに割れて潰し合いをしている状況をチャンスとばかりに名目上は反政府側を支援するふりをしてどんどん自分の領土を広げて行ったのです。
そこでアサド政権はとある国へ応援を求めます。
ロシアです。
ついにロシアまで参加することになります。
ロシアの支援の名目上はISIL(自称イスラム国)などのテロ組織限定の空爆ということになってますが、どさくさに紛れアサド政権に対立する反政府側(穏健派や一般市民含む)へも空爆を繰り返し行い革命を防ごうとします。
そんなカオスな状態が極限にきている場所があります。
シリア最大の都市アレッポです。
このアレッポはどの勢力にとっても非常に重要な都市だけあって攻防戦が1番激しいこの場所に、なんとまだ避難できない一般市民が何万人もいるんです。
これは想像しただけでもやばいですよね!
それでも空からは毎日のようにロシア軍の空爆が街を襲い爆煙が上がります。
その爆煙にいち早く駆け付け、瓦礫にうもれた中から人々を助け出す男達がいます。
武器は持たず、代わりに白いヘルメットをかぶり瓦礫の山から命を救い出す。
どの勢力の戦闘行為にも加担しない人命救助団体、彼らこそが『ホワイト・ヘルメット/シリア民間防衛隊』なのです。
これがシリアのアレッポ…こんな中でまだ何万人も暮らしているのです。
悲惨な状況…
瓦礫の中へ…
元製造業や元金属加工業の人などの未経験者が多いのです。
このホワイトヘルメット。
人命救助の素晴らしい団体、といった意見だけじゃなく、ネットで検索すれば批判的な噂も出てきたりします。
まあ意図的にフェイクニュースで批判しているのもや陰謀論のようなのものは置いといたとしても、このホワイトヘルメットの活動を支援している主に反体制派の側の中でもそれぞれの思惑があって支援しているのも確かなのでしょう。
でもね、この作品はそういった政治的なことから離れた現場を、前線を密着したドキュメンタリーだということが重要です。
なぜなら。
空爆で街が破壊される現実。
普通の人々が巻き込まれる現実。
その中でホワイトヘルメットの隊員達が命がけで人命救助をする現実。
そこに嘘はないからです。
空爆してくる戦闘機を地上から見上げるのがどれだけ恐いか、そこへ飛び出して救助に向かうのにどれだけ勇気がいるか、そして彼らがそうまでしてなぜ人命救助をするのか、この40分の映画を観れば分かります。
こういう機会でもなければなかなか知ることのできない遠くの世界の現実、Netflixに加入してる人は、是非ご覧ください!
*2018年2月の情報では、シリアの内戦状況はISIL(自称イスラム国)の大幅な勢力減退に伴いアサド政権VS反政府組織という当初の構図に戻りつつあるが先行きは不透明とのこと。
いずれにせよ2011年から始まった内戦は7年経った今でも続いています。
一般市民が安心して生活出来る日が早く訪れることを願っています。